こんな風に「クロものがたり」に終わりが来るとは思わなかった。いや思いたくなかった。点滴をがんばったクロが帰ってきたのは3日前, 2020年7月17日。
食べないクロに自宅で点滴する決断をしたヨウコは休暇でもどってきたもう一人の獣医さんに指南いただくべく、そして彼女の留守中に入院したときの血液検査の結果を見てもらうべく21日に無理矢理アポを取り付け夕方ならとのことで病院に行った。「まずは診察を」。ごもっともだ。このザック先生は一度もクロを診察することもなくいつも気持ちよく相談にのってくださったお医者さんだった。コロナの影響で診察室に入ることはできず私たちは待合室で待った。
よびだされた私たちに告げられたのは思いもよらないことば。
「クロはご存知のように腎機能はまったく果たしていません。そのために食べることはおろか、内臓のあちこちに炎症がおき、痛みもあるはずです。クロをこの辛さから解放してあげましょう」涙をうかべてザック先生は言う。
タカシもヨウコもことばを失う。いつかは来ると覚悟してきた「その日」が今日?
何がなんだかわからないまま、ザック先生がご自分で看取りたいとのことで2020年7月23日、そう明日クロは覚めない眠りにつくことになったのである。
タカシもヨウコも泣く。そして話す。クロは幸せだっただろうか?私たちはクロに正しいことをしてきてあげただろうか。あの劇的な再会の日から3年弱、もうすぐクロは5歳の誕生日を迎えるというのに。
長い長い最後の「とき」をクロと過ごした。かたときも離れずに。クロの部屋で。
おしらせ
2020年7月23日 晴れ 13時30分
生まれ故郷のポルトガルのような真っ青な空のもと、
我が家の大事な家族くろは今日をもって住むところを移りました。
2度とお引っ越しもなく、時間やお食事の制限もない場所に。
新住所はタカシとヨウコの心
クロを可愛がってくださった全てのお友達の心
『お世話になりました!ボクはとても幸せでした!』
クロからのご挨拶です。
やすらかに眠りについたクロはまるでいつもとかわらず眠っていた。冷たくも硬くもならず
すやすやと。わたしたちの寝室で一晩すごした。
それはそれは穏やかな時間だった。生涯忘れることはないだろう。
タカシの会社のすぐそばに動物専用の火葬場がある。タケとナツミさんが一緒にクロを見送ってくれた。ナツミさんはクロ宛てのおてがみを添えてくれた。うれしかった!
最愛の人と別れを告げるこの瞬間はいつも受け入れがたい。身体から離れ魂は
天国に迎えいれられる瞬間? どう信じれば良いのか。
今はクロは寝室に。理屈ではない。ただクロは確実にここにいる! そう考えないといたたまれなくなる。
庭で餌をついばむ黒い鳥、ゴルフ場で出会うカモやその他の小動物。出会えば
クロ!と呼びかける。そして振り向いたと二人は確信する。
家に帰るとクロが2階から降りてくる。ここかしこに居るクロ。
エピローグ
わたしたちはことばを失った。
友人から投げかけられることばは心に触れてこない。ただ、、、、、
そのかわりにいただく「想い」 はしっかり心に届く。
そして今「愛しい想い」に包まれている。世の中に対して。
クロに出会うことで育まれたのは
愛しさ、いとしいと思う心。
慈しみ、いつくしむという行為。
それは確実にわたしたちの心に植えつけられ、
これからの私たちの宝になっているはずと確信する。
ありがとう、クロ!